第5章 シーン3
私の家の郵便受けに一通の手紙の封筒が入っていた。差出人は吉澤美和とあった。その手紙を見つけた瞬間、私は急に体の力が抜け、その場にへたりこんでしまった。ありえない。何故。どうして美和から手紙が送られてきたのか。美和はもう、この世にはいない。
高校3年。大学入試共通テストが終り卒業を控えた3月。美和は何の前触れも無く突然自殺した。私には何も言わず、メールも何も残さないで、スマートフォンの電池が切れてどこからも繋がらなくなるように自殺したのだ。自殺の前の日、私と美和は普通に会って、話していたし、メールもやりとりしていた。学校でいじめられているということもなかった。普通だったはずだ。何も変わりはなかったはずだ。
死因は手首の静脈と動脈を傷つけた事での出血多量。話によると両方の手首と腕に深い傷と浅い傷があり、おそらく、静脈を傷つけただけではいつまでも死ねなくて、それで動脈まで傷つけて体に残っていた血を出した、という事だった。美和の遺体には腕に無数の傷が付いていて隠せないので、包帯が巻かれていた。遺書が残されていた。そこには両親への今まで育ててもらった感謝の言葉と、これから生きていく自信がなく自殺すること、そして、骨を友達の私──渡辺裕香に渡して欲しいという事が書いてあった。その遺書には自殺する理由らしい理由が書いていなかった。どうして美和が自殺したのか美和の両親も分からなかったらしく、美和が自殺した当時は半狂乱気味に私に美和の話を聞きに来た。いじめはなかったのか、男が関係しているのか、何か変なものにハマっていなかったか、色々聞いてきた。私は何も知らなかった。いつも美和の横にいたのに、美和の事を何も知らなかったのだ。