第11章 シーン8
私は美和との初めての出会いを覚えていなかった。何となく記憶の底にあるようで、でもそれは見つけられなかった。子供の頃の記憶などそのようなものだろう。全部覚えているようで覚えていない。
覚えているのは何となく強い印象がある記憶だけで、その印象が強い記憶を覚えている理由など子供の頃だからよくわからない理由で覚えているのだ。例えば私が小学1年の頃、家の近くにマクドナルドが出店し、連れて行って貰いたがったのだが、何となく親に言い出せずにいたという思い出がある。何故こんな記憶をすぐ思い出せるのか、マクドナルドの近くを通るたびに思い出すのかよく分からない。
他にも月にアメリカがあると思い込んでいた頃の記憶や、学校の近くでキリスト教関係の宗教関係者が絵本のようなビラを配っていた事など、それは夜に見る夢のような感じで端々に覚えている。子供の頃の記憶とはそういうもので、きっと美和が手紙で書いているのはそのような些細な事なのだ。私には些細で、美和では些細な事で無かった事。小学二年の頃から美和はずっと隣に居て、それが普通だった。だから初めてあった時の記憶など覚えていない。