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おんぼん

第1章 寝言の秘密


「俺、なんか言ってました? 寝言とか」
「え?」
 俺はおんりーちゃんの方を向いた。おんりーちゃんとはさっきから目が合わないまま俯いていて、表情まではよく見えない。
「何かって……俺の名前は呼んでたけど?」
「えっ」
 俺の答えに、心底驚いたような顔をしてようやく目が合った。感情の起伏が少ない表情から、ほんのり赤みが見えていた。そうか、恥ずかしいよな、寝言なんて聞かれたら、と俺は気にするなと軽く笑った。
「誰にも言わないから、ね?」
「あ、はい……」
 俺の回答が間違っていたかのように目を逸らすおんりーちゃん。え、機嫌悪い? おんりーちゃんって寝起き悪いタイプなの?
「まぁ、撮影とか大変だけど、あまり無理しないでよ」
 俺はその場で伸びをした。足の痺れもだいぶ引いてきていた。おんりーちゃんからの返答はなかったので、やっぱり寝起き悪いタイプだったんだなと俺は思った。
「それにしても、なんで俺におんりーちゃんの様子見に行かせたんだろ。自分で行けばよかったのに」
「それは、ドズルさんが気を遣ってくれたのかと」
「ドズさんが?」
 俺は前屈みになっておんりーちゃんの顔を覗き込む。おんりーちゃんはバツが悪そうに慌てて目を逸らした。なんでよ。そんなに俺の名前を寝言で呼んだのが恥ずかしかった訳?
「なんで俺に行かせたことが気遣いになるのよ」
 おんりーちゃんの様子が変なのは気になるが、気を遣う発言は気になってそう言うと、おんりーちゃんがまた目を合わせてこう聞いた。
「もしかしてぼんさんって……鈍感です?」
「……ん?」
 一瞬の間。
「じゃあもう帰ります」
 おんりーちゃんは床に落ちたままの抱き枕を拾って立ち上がった。あ、待ってよと俺も立ったがこちらを一回も見ずに深くお辞儀して談話室を後にした。
 俺に意味深な言葉を残して。
「まさか、ね?」
 俺はそう思うことで誤魔化すしかなかった。
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