第2章 密室の告白
「ぼんさん、水入れますよ」
ここは歳下の僕がやらなくては、と後輩感覚で水入りポットを持つと、ぼんさんは素直にありがと〜とコップを出してきた。ぼんさんはそんなにお酒は飲んではいないけど、喉は乾くはずだ。
そうしてコップに水を注ぐと、ぼんさんが一気に水を飲み干した。僕がすぐにもう一杯注ぐと、ぼんさんがぽつんとこう言い出したのだ。
「俺さ、結婚するならヒカックがいいなぁ」
「え”っ」
一瞬の動揺。僕は手を止めてしまったがすぐには動かして水が零れないようにする。
それからぼんさんの方を見やると、なんの気もなさそうにまた少し水を飲んで肉を食べ始める。本当に美味そうに食べるから、人を食事会に連れて行くの好きなんだよな、と僕は思った。ぼんさんなら、なおのこと。
「だってさ、すぐよく色んなことに気付くじゃん?」
まだこの話が続いていたのか、どうやら僕の話題を続けながら食事をするぼんさん。ぼんさんのコップにあるアルコールはそんなに減っているようには見えない。まさか、シラフで言ってる? この人。
「そうですか? ぼんさんにそう言ってくれて嬉しいです、僕」
これがベストアンサーだったのか、ぼんさんがケラケラと笑った。やっぱりヒカックだなぁ、なんて呟きながら。
けど僕の内心は荒波状態だった。それは冗談で言ったんですか? 喉まで出かかった。でも言えなかったのは、答えが怖かったから?
「ヒカックはマメな性格だよね。ここの予約もしてくれてたんだし」ぼんさんはまだ話し続ける。「この前の誕生日プレゼント、見ただけで分かったよ」
そうして僕への褒め言葉をスラスラと言うぼんさん。僕は錯覚か幻聴なんじゃないかと思い始めてきた。もしかして、こうして二人きりで話しているのだって、夢なのかもしれない。
「喜んでもらえて嬉しいです。今度、サッカーの観戦一緒にしましょうね」
「おお、いいよ〜。何時にする?」
せめて夢ではないと証拠を残すために、次の約束をした。
おしまい