第5章 ドラゴン
そんなことはない。ネコおじは言い返したくておんりーの足元にすり寄ったが、猫語が伝わるはずもなく、ひょいっと体を持ち上げられて頭を撫でられてしまった。心地がいいんだけど、ちょっと待ってとネコおじが思っていると、おんりーは話し続けた。
「愛を奪っているドラゴンがいるらしいんです」
「愛を……?」
ドズルは聞き返した。皆の目線も一気におんりーに注がれ、ネコおじも彼を見上げた。
「ドラゴンがいるおおよその場所は特定して置きました。近々そのドラゴンを討伐に行こうと思っています」
「おんりー、それなら僕も行くで?」
おんりーの言葉にすぐに応じたのは弓矢を構えたおらふくんだった。このおらふくん、こんなかわいらしい顔をしてなかなかの戦闘特化型なのだ。
「僕も行くよ。おんりーには頼りっぱなしだし」
勇敢なドズルもおんりーに同行の意思を示す。見るとMENも、よっしゃあと立ち上がって背中のツルハシを手に取った。
「ドラゴンを倒すくらい、誰にでも出来ますねぇ」
といつものセリフを言いながら。
じゃあみんなで行くよね、と皆の視線はベットに寝転がったままのぼんへと移った。ぼんはいかにも面倒くさそうな顔をした。
「ええ……俺も行くの?」
「ぼんさんがいないと始まらないじゃないですか」
ぼんに対して、ドズルがそう声を掛ける。
聞いた話によると、この一見面倒くさがりで女の子好きのただの男性に見えるだけの彼は以前、愛に飢えて路頭に迷っていたドズルを助けた唯一の人物だったという。だからきっとドズルは、ぼんのことを心から恩と優しさを信じているのだと思う。これはネコおじだけの秘密なのだが。
「分かったよ。行きます行きます」
投げやりな言葉で頭をさするぼん。ドズルは満足そうに微笑んで、おんりーとMENも嬉しそうだった。おらふくんは感情が豊かだから、誰よりもニコニコしていた。
そうして、ドズル一行は明日の朝、ドラゴン討伐のために出発する企画を立て始めた。ネコおじはみんなの手元があるテーブルを行ったり来たりしながら、それぞれの穏やかな、時々楽しげな会話を聞いている内に、眠りについた。
彼らもネコおじも、この先あんなことが起こるなんて、思ってもいなかったのだ……。