第10章 通気口での会話
「でもさぁ、なんでこの世界、愛が禁止になったんやろ」
牢獄への潜入に成功したドズル一行。MENの改造ツルハシでひび割れた壁が簡単に壊れ、彼らはドズル、ぼん、おらふくん、ネコおじ、MENの順番で牢獄の通気口を通っていた。
そんな時、ぽつんとそう言ったおらふくんに答えのはドズル。
「そりゃー大昔の王様の奥さんが、愛で死んじゃったからだよ」
「けどさ、だったら普通にドラゴン倒せばよかったじゃないですか」
それもそうだ。ネコおじは人間たちの言う「愛」がどんなものかはよく分かってはいなかったが、ドラゴンが愛を奪う病気の原因なのに、なぜ「愛」を禁じたのかも分からなかったのである。
「あれじゃない? 誰かがドラゴンのことを隠すために、王様に「愛」という病気があるって言いふらしたやつがいるんだよ」
こんな時になんて冗談を言うんだ、というのはこの仲間たちが言うこともなく。ぼんの言葉にドズルは本当ですかねぇと半笑いし、おらふくんはそれが当たってたらすごいと大笑いし、MENにいたっては「言いふらしたのはぼんさんですか?」なんて言い始めた。
「なんで俺が、実は悪役説になってるのよ」
「いやぁ……日頃の行いっすかねぇ」
ネコおじは、そんなぼんとMENの楽しげな会話が好きだった。これが人間の言う「愛」というものなら、禁じる必要はないのではとネコおじも思ってしまうのだ。
「あ」
そうこうしている内に、先頭を進んでいたドズルが歩みを止めた。歩みといっても、四人は猫みたいに手と足で通気口を這っていたのだが……急に止まるものだからぼんがドズルにぶつかったらしく、なんなのよと騒ごうとした直前、ドズルがしぃっと声をひそめた。
「……多分、看守室の真上にいますよ、僕たち」
「え」
ドズルの言葉に、皆が一斉に声を小さくさせる。ネコおじもうっかり鳴いてしまわないように気をつけながら、真下から聞こえる会話に耳をそばだてた。