第1章 純情恋物語編
潤之助「…実を申せば」
潤之助さんはキリリと背筋を伸ばして座り直すと言った
潤之助「もう既に水面下で智子姫の縁談が進められているのです」
にの江「……縁談……」
予想はしていたものの、潤之助さんの口から“縁談”と言う言葉を聞いて、軽く目眩がする
潤之助「…知っての通り、殿の嫡男であらせる御正室のお子
つまり、智子姫の腹違いの兄上は、横暴で粗雑で…お家の主たる器とはとても言えぬお方で…
その余りの素行の悪さに、お家内では、智子姫に婿を迎えて跡目を継がせようと言う動きが御座いました」
にの江「…噂は、聞いております」
智子姫は、殿の寵愛を一身に受けていた側室の方の忘れ形見
殿には、智子姫の他に正室の方との間に嫡男たる男子がおいでだったのだが
この嫡男ってのが、殿の寵愛を智子姫の母君に奪われた正室の方が、息子を猫っ可愛がりして甘やかしたもんだから
ろくでもない男に成長してしまったのだ
(…まあ、正室の方も、可哀想と言えば可哀想だけどねぇ)
潤之助さんは、腕組みをすると話を続けた
潤之助「それで、そのコトを知った御正室方が、自分のお子を跡目に就かせる為、智子姫のお命を狙っている
との、不穏な噂が立ち
大事な姫に万が一の事があってはならないと殿が仰せになって
取り敢えずの身の安全の為に、表向きは、病に臥せっていると言うことにして
拙者に姫を託し、屋敷の外に逃したのです」