第5章 神隠し騒動編
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にの江「侑李、侑李や!
何処に居るんだぃ?」
薄ぼんやりと日が暮れ始めた、ある日の夕刻
あたしは、店番を番頭さんに任せると、奥の居間へ戻りながら、可愛い我が子の名前を呼んだ
にの江「侑李!侑李!」
侑李「はぃ、ははさま
ゆうりはここにおります」
ここ最近、幼い可愛い男の子の失踪事件が相次いでいた所為で
あたしは自分の傍から侑李を片時も離さずに過ごしていた
でも
時には仕事の都合で目を離さなければならない事もあったりして
そんな時は、家の奥座敷から一歩も出ない様にと侑李には堅く言いつけてあったのですが
それでも、心配なもんは心配で…
…ついつい、その無事を確認する為に大声で名前を呼んじまったりする訳で御座います(苦笑)
で
すぐに返事が無くて、一瞬何かあったのではと焦ったものの
奥の部屋から侑李の畏まった声が聞こえて来て、あたしは漸く安堵して胸を撫で下ろした
にの江「はぁ、良かった……すぐに返事が返らないもんだから、居ないのかと思っちまったよ(苦笑)」
苦笑いしながら、侑李の声がした奥座敷の戸を開けると
部屋の端っこにちょこんと座っていた侑李が、部屋に入って来たあたしを見上げて言った
侑李「ごめんなさい、ははさま
おっきな声を出したら、ととさまが起きちゃうと思って…」
にの江「は?ととさまが起きるだって?」
言われて部屋の中を良く見たら、奥座敷の更に奥の座敷に布団が敷いてあるのが目に入った
どうやら、雅吉がそこで寝ているらしい
侑李は頻りに布団の方を覗いて、雅吉が起きてしまっていないかを気にしているようだった
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