第4章 禅寺人斬り騒動編
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(…一度もってコトはないね…)
あの仇討ち騒動の時に、あたしはつい、雅吉が一番話したく無かったであろう過去の話を訊ねちまったんだから
…なんて思って、暖かい雅吉の腕枕に顔を押し付けたら
あたしの物思いを察した様に、雅吉が優しくあたしの頭を撫でながら言った
雅吉「……そお言やぁ、俺ぁ自分のお母の話しなんざ、したことが無かったっけかなぁ」
にの江「……え?」
その言葉に驚いて顔を上げると
雅吉が、穏やかな優しい目であたしを見つめていた
雅吉「俺ぁよ、江戸のど田舎のどん百姓の息子でよぅ
…昔っから、喧嘩だけは強ぇ鼻たれ小僧だったんだけどょ
お父は、俺がうんと小せぇ頃に流行病で死んじまって、お母が女手一つで百姓しながら俺を育ててくれてたんだけどなぁ…
…そのお母も、俺が十になる頃に、無理が祟って死んじまってよ…」
にの江「………そう」
突然語られ始めた、雅吉の不幸な幼少時代の物語に、思わず目を伏せるあたしの
その、伏せられた瞼に、雅吉の優しい口付けが落ちる
にの江「……ん///」
雅吉「……そんでよ」
暖かくて大きなその手で、あたしの背中を愛撫しながら
雅吉があたしの瞼に唇を寄せたまま話を続ける
雅吉「そんで、身寄りが無くなっちまった俺をさ、村の道場主が拾ってくれてよ
まあ、何の因果か腕っぷしだきゃあいっちょ前だったからよぉ、俺ぁ
…こいつぁ見込みがあるってんで、その道場主のお師匠で、もっとデカい町中の道場主の、相葉家の養子に貰われたのさ」
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