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蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第3章 養子騒動編


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にの江「さぁて、恋太郎ちゃん、何して暇を潰そうかねぇ?」



お智ちゃんの姿が見えなくなるまで見送った後

恋太郎ちゃんを抱いたまま、玄関に腰掛けてそう言うと


恋太郎ちゃんが、また元気にあたしの口真似をした



恋太郎「ちゃーちて、まぁお、ちゅぶちょー、ちゃあ、ねえ!」

にの江「まあま、本当に、恋太郎ちゃんは物真似がお上手だこと!(笑)」

恋太郎「おじょーじゅ!」

にの江「ふふふふふ(笑)」


─ガタン
「御免!!」

にの江「!?」



可愛く物真似をする恋太郎ちゃんを見て笑っていたら

玄関の戸が勢い良く開いて、見慣れぬお侍が数人店にドカドカと雪崩れ込んで来た



にの江「何だいあんたら!お侍の癖に随分と不作法だねぇ!」

「煩い、黙れ!

黙ってお主が抱いておる御子を渡すのだ!!」

にの江「何だって?」



何処から見ても、只の可愛い町人の子供にしか見えない恋太郎ちゃんを

身なりの良いお侍が、“御子”と呼ぶのに、嫌な予感がしたあたしは

咄嗟に恋太郎ちゃんを背中に隠した



にの江「………あんたら、何者だぃ!?」

「その様な事は宿屋の女将如きが知る必要は無い!

つべこべ言わず、さっさと智子姫の御子を渡さぬか!!」

にの江「!!!」



(間違いない、こいつらは、智子姫のご実家の縁の侍だ…!!)



「さあさあ、大人しく御子を渡すのだっ!!」

にの江「馬鹿をお言いでないよ!可愛い恋太郎ちゃんをおいそれと知らない輩に渡せるもんかね!!」

「ええぃ、面倒くさい、こうなったら力ずくじゃっ!!」



先頭のお侍がそう言って仲間に合図すると、お侍たちがあたしに向かって腰の物を抜いた



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