第2章 距離1
ほどなくして、止まっている車に乗り込む。おれが乗り込むと、運転手はあからさまに嫌そうな顔をした。この車高そうだもんな。汚した分はおれが、と言いたいところだが車の中の掃除の仕方なんて分からないし、ここはちょっと見逃してほしい。
車は行きと同様静かに走り出す。移り変わる景色を飽きることなく眺めていれば、ふいに五条が口を開いた。
「お前、なんでここにいんの?」
ここに、というのは、たぶん何で五条の護衛をしているかってことだろう。抽象的な言葉から、具体的なことを思い浮かべるのはいつだって苦手だった。
質問の答えを考える。なんで、と言われると難しいけど、
「金のため、です」
あえていうなら、そうなのだろう。生きていくにはお金がいる。食べ物を買うにも、雨や風をしのぐにも。人間は生きるだけで本当にお金がかかるのだ。
「………そう、」
五条はそれ以降めっきりと黙ってしまう。
静かな車内は、昔すんでいた家を思わせる。人はいるのに、とても静かな家。もっとも、こんなきれいでも、上質でもなかった。
ああ、そういえば。
おれの父は、どんな姿をしていたっけ。
思い返してみても、結局思い出せないままだった。