第4章 フリースケーティング
フリースケーティング。
【別れのうた】
ピアノの音色がさびにかけて音階が上がっていく。
いつも通り、いつも通り…
ズシャッ…
トリプルルッツ!
よし、着地後も流れがあっていい感じ!
このままこのまま最後まで
須藤コーチに何回も言われたこと、
どんなに辛くても、疲れても、失敗しまくっても、笑顔を忘れない。
次のコンビネーション
トリプルトーループ ダブルループ ダブルルー…
ザッ…
手がバラけてダブルループがシングルループになってしまった。
ミスった…。
津田七瀬に抜かされる…。
世界ジュニアが遠くなる…。
ゆづるくんに報告出来なくなる…。
玲に自慢出来なくなる…。
須藤コーチを喜ばせたかったのに…。
そしてまた自分に負ける…。
色んな想いで全身が硬直したようになる。
ピアノの落ち着いた音色が私を焦らせる。
トリプルサルコウッ…
ズザー…
三回転を回りきらずにわずかに手をついてしまった。
落ち着け…落ち着け…。
笑顔、笑顔
私は不自然な笑顔を振り撒いた。
そして最後は
得意なビールマンスピンで締めくくった。
ーー
演技が終わり、会場をいろんな方向から見渡し、お辞儀をする。
どうだろう…
津田七瀬は最終滑走グループの二番目。
つまり私の次の次。
「頑張った頑張った。でも余裕がなかったんでしょ…」
須藤コーチがまた肩を軽く叩いた。
「はい、コンビネーションが…」
私はボソッと返事をした。
リンクを出て、点数を待つ。