第6章 *File.6*諸伏 景光*
「じゃあ、また面談の時に」
「……って。待って!」
「望月?」
ドアに手を掛けたまま振り返れば、望月は直ぐ傍まで駆け寄って来た。
「…あの時の言葉はまだ有効、ですか?」
「…えっ?」
少し躊躇ったようにゆっくりと伸びて来た指先が、オレのシャツをギュッと握り締めた。
「本当だったらいいのにって、ずっと思ってたの」
「!!」
縋るようにオレを見上げる真剣な瞳に、今度はオレの方が驚く。
「あの時、初めて見て聞いたから。先生の、あんなに優しい表情と優しい声」
「……優しい?」
「うん、凄く。だから、ウソかホントか分からなかったの」
オレ自身は全くの無自覚だが、望月はハッキリと頷いた。
可愛い笑顔を浮かべ、ウソ偽りのない瞳で。
だったら、今成すべきことはたった一つ。
「オレは望月、キミが好きだよ」
少しでも、この想いがキミへ伝わるように。
少しでも、この想いをキミに信じてもらえるように。
視線を真っ直ぐに合わせて、もう一度言葉にした。
きっと入学式のあの日、この腕の中にキミを抱き留めたあの瞬間に、恋に落ちたんだ。
「私、諸伏先生が好きです」
「っ!」
柔らかでいて、花が咲くような綺麗な満面の笑顔の言葉に、心を奪われる。
「有難う」
礼を述べながらこの腕を伸ばして、彼女の小さな身体を抱き締めた。
「…あ、あの」
「ごめん、もう少しだけ」
腕の中の望月の照れ臭そうな声に、柔らかな髪へキスを一つ。
もう、イヤと言うほど分かってる。
ココは学校であり、教室であることも。
オレはこのクラスの担任であり、キミはこのクラスの生徒であることも。
「せ、センセ?」
「随分と、遠回りをしてしまったな」
「…うん。でも…」
「ん?」
少し腕を離して、視線を下ろす。
「遠回りをしなかったら、あの時の先生は見られなかったよ?」
「見せて、あげるよ」
「えっ?」
「これから先、何度でも」
色んなオレの姿を。
だから、オレにも見せて。
キミの綺麗なココロを。
学校では見せない、ありのままのキミの姿を。
白く綺麗な頬に手のひらで触れると、少し躊躇ったようにゆっくりと瞼が伏せられるのを見届けた後、そっと唇を重ねた。