第6章 *File.6*諸伏 景光*
「入学式の日にスマホ忘れるなんて、有り得ない!と思って、家に取りに帰ったんだって。学校まで走りながら、スマホで検索して学校に電話を掛けることも考えたそうだけど、本人曰く、その時間さえも勿体なかったそうだよ」
入学式の記念写真は、確かに撮りたいだろう。
実際に、さっき帰り際に友達と撮ってたのを見た。
それに入学する前に、通う予定の学校の電話番号を登録するなんて、普通はしないよな。
実際に通い始めたなら、まだしも。
「望月の家は、学校から遠いのか?」
「いや、徒歩で通学してる」
「入学式に間に合ったのはよかったが、それは明らかにウソだろ」
「だと思うよ。さっき理由を聞いた時、予め用意してたような返事にしか聞こえなかった。それに…」
「それに?」
「あの時、傍で話を聞いていた黒羽も、オレと同じように考えたみたいだったから」
「黒羽?」
「ああ、黒羽快斗。ウチのクラスの彼と中森は、望月の幼馴染らしいよ」
「へえ」
小学一年生からの自分の幼馴染の教師とそんな会話をしたのが、入学式が行われた日の午後。
「諸伏チャン、電話!入学式の日に遅刻しそうになった、若しくは遅刻した、小柄で茶髪の可愛い女生徒はいないかって、問い合わせ来てる」
「有難う!お電話代わりました。彼女の担任の諸伏です」
『お忙しいのに、突然ゴメンなさいね。私、彼女に助けていただいたのに、本人に何も聞かずにそのままお別れしてしまったものだから』
電話越しに聞こえるおっとりとした優しげな声は、年齢的には恐らくおばあさん。
『彼女、遅刻した理由を貴方にきちんとお話ししたかしら?』
「望月さんは学校まで猛ダッシュで走って来て、入学式にはちゃんと間に合いましたよ」
『良かったわ。私、それが気掛かりで仕方なかったの。あの子、望月さんって仰るの?』
「はい。あの日、彼女が遅刻をしかけた理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
『ええ。あの日の朝、実はね……』
この電話の主は、あの日の朝、タクシー会社に電話を何度掛けてもタクシーが捕まらず、仕方無しに電車を使い、通院の為に病院に行こうとしたらしい。都内に住むお年寄り、よくあるある案件だそうだ。