第1章 *File.1*諸伏 景光*
「改めて、はじめまして。望月雪乃です」
雪乃がペコリと頭を下げた後、オレは大まかに彼女との出逢いを打ち明けた。
「要約すると、仕事が終わったヒロが警視庁の執務室のドアを開けたら、彼女の家のドアに繋がっていた」
ホントは家のドアはドアでも風呂場のドアで、淡い湯けむりの中、初対面で入浴中の雪乃のほぼ全裸を二度もガン見てしまったことは、一生誰にも言えない…。
いやだって、めちゃくちゃキレイだったから、男として、さ。
それに状況的にも見るなって言う方が、無理だし?
「彼女は『名探偵コナン』と言う漫画のオタクで、その中の登場人物である諸伏推しだった。で、俺達もその登場人物だった」
可愛らしい部屋にはオレやゼロ、このメンバーのグッズがたくさん飾ってあって、さすがのオレもビビった。
オレ達は此処で当たり前に普通に人間として生きているんだから、まさか自分がアニメのキャラだとか思うはずも考えるはずもないだろう?
「何故か諸伏チャンは彼女の家を出ることが出来ずに、突然手首に表れた文字通り、72時間きっかり彼女の家で過ごした」
雪乃は普通に家の出入りが出来た、のに。オレが玄関から先を越えようとすると、見えない壁が現れて監禁状態!まるで、魔法の世界にいるかのようだったよ。
「帰る頃にはちゃっかり愛し合ったが、手首の数字が消えると共に、諸伏は此処へ戻ってきた、と」
気付いたら、まるで居眠りをしていたかのように、何故か元の自分のデスクで寝ていた。
目が覚めたら、まだ翌朝の六時を過ぎだったよ。
だから、雪乃と過ごした三日間が夢だったのかリアルだったのか分からないまま、自宅に帰ったんだ。
「不思議だよな。ヒロがどれだけ調べ尽くしても、彼女は見つからなかったのに」
「ああ。今日はあれからピッタリ半年後だ」
「その後、何か変化は?」
「翌朝、目が覚めたら、『名探偵コナン』は全部消えてました。残っていたのは、諸伏君との記憶だけ。でもついさっき、『名探偵コナン』の記憶が一気に戻ってきました」
「まるで…」
「お前と彼女を会わせるため、みたいだな」
「けどよー、感動の再会の場所が、実は互いに馴染みの居酒屋ってどうよ?」
「それはオレに言われても…」
「試されたんじゃないの?居るか居ないかは分かんないけど、神様とやらに」
