• テキストサイズ

*名探偵コナン*短編集*

第1章 *File.1*諸伏 景光*


「ひ、ヒロくんっ?!」

ああ、良かった。
口許を被っている手のひらの中で雪乃の柔らかな唇が動いて、息遣いと共に手のひらに微かに触れる。
声にならない声が、耳に届いた。
目いっぱい開いた瞳は直ぐに水分で潤い、それだけで、今の雪乃の感情が伝わって来る。
あの日からずっとオレと同じ想いを抱えていてくれた、のだと。

「ど、して…此処に、いるの?」

右手をゆっくりと離すと、記憶のままの声で訊ねられた。

「オレにも分からない。でも…」

視線を合わせたまま、左右に首を振った。

『やっと逢えた』

オレと雪乃の心で言葉が重なって、二人同時に笑顔になった。

『何時か、必ず』

ずっと変わらずに重なっていた、たった一つの二人の願い。
そう強く願う反面、心の何処で諦めかけてもいた。
それでも毎日、一日たりとも諦めきれなかった。
この生命がある限り、きっと何時の日にか何処かでまた、雪乃と巡り逢える。
何の確信もない中、心の片隅で僅かな希望を胸に抱いて生きて来た。
今はただ。
またキミに逢えた。
それだけで胸がいっぱいで。
何も言葉にならない。
一度腕の力を緩めると、声も無しに涙を零す雪乃の指先が縋るように正面からオレを抱き締めた。
ああ、何も変わらない。
雪乃の優しい香りも柔らかな温もりも、可愛らしい声も。
あの時のまま。

「!」

不意に廊下の向こうから店員らしき人が来る気配を感じて、抱き締めた腕はそのままに元いた部屋に戻り、襖を締めたら、

「お、おまっ!」
「もっ、諸伏チャン?これは一体どういうことっ?」
「お前、とうとう人攫いを?」
「これは、現行犯逮捕だな」

一斉に四人の驚きと揶揄いの声が響いた。

「「!!」」

あー、すっかり忘れてた。
腕を緩めると、まだ潤んだままの瞳がまた、大きく見開かれた。
白い頬に伝う涙を、伸ばした指先で拭ってあげる。

「……?!」

オレの身体を避け、抱き締めた腕はそのままに背後にいるアイツらを覗き見た。

「ぜ、ゼロ、陣平ちゃん、萩…はんちょ?」

ホントにいた!
見上げる雪乃の目がそう語る。


/ 86ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp