第5章 戻れない場所(黒の時代)
太宰は織田作の目を見た
織田の目には確信の光があった
かつて自分が通った道を、太宰に示そうとしているのを太宰にはそれが判った
そして太宰は信じる気になった
「判った、そうしよう」
「“人は自分を救済する為に生きている_死ぬ間際にそれが判るだろう”か……その通り……だったな……」
織田の表情から急激に血の気が失われつつあった
青白い顔で織田は微笑した
織田は震える指でコートから煙草を取り出した
のろのろした動きで煙草を口に銜えた
燐寸を取り出したところで指に力が入らなくなった
太宰が燐寸を受け取り、煙草に火をつけてやった
織田は目を閉じて、火のついた煙草を吸い込み、満足そうに微笑んだ
「駄目だ、間に合わない!」
「もういいよ、琴華…織田作をこのままにしてやって」
「……はい」
少し経った後、煙草が床に落ちた
太宰と琴華は織田の隣に膝を落としたまま、何も言わなくなった