第17章 夜久衛輔 攻めの姿勢
「くっそ‥何で今なんだよ‥」
苦しそうな声に
夜久君の気持ちが痛いほど伝わって来た
犬岡君とコーチに肩を支えられながら歩いてくる辛そうな顔を見て
涙が溢れそうになるのを唇を噛み締めて必死に堪える
代表決定戦の終盤
コート外にとんでいったボールを取りに行った夜久君が
観客の人達の間から出て来た時には
様子がおかしかった
『っ‥』
足を着いた途端に
苦痛に歪む顔
「白鷺‥応急処置頼む!」
隣に座っていたコーチが夜久君の元へ駆け出していく
『なんで‥っ‥なんで今なの‥』
下を向きながら救急セットを準備し始めると
堪えきれずにぽろぽろと溢れる涙
「大丈夫‥絶対にやっくんもお前も、全国連れていくから」
鉄朗の声が聞こえる
『うんっ‥』
「夜久を頼んだぞ」
夜久君に気付かれる前に溢れる涙を袖でグイッとふくと
鉄朗がニっと笑って前を向く
『ゆっくり脱がせるね‥』
「っ‥」
2人がかりでベンチに運ばれてきた夜久君のシューズと靴下をゆっくりと脱がせて
じんじんと熱を持つ足首に急いでもらって来た氷嚢をあてる
『‥』
「‥」
グッと眉を寄せて
必死に涙を堪える夜久君にかける言葉なんて見当たらなくて
2人で無言のまま試合の成り行きを見守る
一年生の時に幼馴染の鉄朗に誘われてマネージャーとして入部したバレー部で
夜久君に出会って
「絶対に幸せにするから俺と付き合って」
ってニカッと笑う姿にドキドキして
一年生の終わりには恋人同士になった
クラスも同じで
部活も同じで
休みの日も一緒に過ごして
毎日のように一緒にいたけど
こんな顔をした夜久君は初めて見て
心臓が痛いくらいに締め付けられる
『大丈夫‥絶対に大丈夫だよ‥』
そんなありきたりの言葉を
自分にも言い聞かせるように話しかけながら
足首と氷嚢を包帯で固定していく
「俺‥支えてくれた花澄の為にも‥絶対にっ‥全国に連れてくって決めてたのに‥‥っ」
ぽつりぽつりと溢れる言葉
そんな悔しさがこもった言葉に唇を噛み締めることしかできない