第17章 別れの序章
「それでさ~お妙さんってさ~!…」
あれから10分、私たちはひたすら近藤くんに''妙ちゃんの魅力''について聞かされていた
『土方たちいつもこれ聞かされてるんだね…』
「俺はもう慣れたけどな」
「わぁ、桜ちゃんの弁当美味しそう」
「おおっ本当だ!全部自分で作ってるのかい?」
山崎くんの言葉に反応した近藤くんが私の弁当を見て言った
『まぁ…一応一人暮しだから』
「へー偉いなァ…きっと桜ちゃんのお母さんもお父さんも誇らしく思ってるよ」
『そう…かな。ハハ』
笑顔で話す近藤くんに私も笑顔で返そうと思ったけど、何故だか上手く笑えなかった
すると突然沖田が私の弁当のたまごやきをひょいっとつまんで口に入れた
『えっ…』
沖田?
「ちょ、沖田さん!それ桜ちゃんの…」
「甘ェ…」
山崎くんの言葉を遮り沖田が口を開いた
「俺ァもっと醤油味の方が好きだなァ…つーかだし巻き派だねィ」
『…』
「総悟、別にオメェの為に作ってるわけじゃねーんだぞ」
そう言って沖田に怒鳴る土方をよそに私は沖田を見つめた
今の…ひょっとして気を遣ってくれたのかな。
生きているのかもわからない私の両親のことを知ってるから…
私が傷つかないように…。
『…うん、じゃあ今度はだし巻きにもチャレンジしてみるよ』
私の言葉に沖田は一瞬目を見開いたけど、またすぐにいつもの顔に戻った
そんな私たちのやり取りを見ていた3人はただ頭にハテナを浮かべて顔を見合わせていた
『あ、水筒忘れちゃった…』
玄関に置いてたのに持ってくるの忘れるとかバカだな私。
『ちょっと飲み物買ってくるね』
そう言って席を立とうとした時、
「吉野、これ…」
そう言って沖田が差し出したのは
『これ…』
「一応…買ってやったんでィ」
それはあの祭りの日、ゲームで勝ったら奢ってくれると言っていた焼きそばだった
あのあと色々あったから忘れてたけど、沖田…覚えてたんだ。
沖田の手からそっとそれを受けとる
"ありがとう"とお礼を言おうとしたその時
ガラッ
「桜~!!」
物凄い勢いで教室の扉を開け、その男はガバッと私に抱きついてきた
「「えええええええっ!!?」」
一瞬のことにその場にいた全員が固まった