第16章 二人だけの花火
[沖田side]
『この辺の浜辺だったら花火しても大丈夫でしょ』
そう言って何処かで買ってきたであろう花火の袋をゴソゴソと漁る吉野に目を向ける
半ば強制的に連れて来られたのは祭りがやっていた公園のすぐ近くにある海だった
時間も時間だけあって周りに人はほとんどいない
「花火買う金なんかあったんだな」
『あー…ううん。これはちょっと前に買ってたやつなの。沖田とやろうと思ってたんだけどダメだったから高杉とやろうかなって思って持って来てたんだ!線香花火だけだけど』
高杉…か。
そういやこいつ今日の祭り…高杉と来てたんだっけ。
「…お前が高杉と仲良かったなんて意外だったぜィ」
『別にそんな仲良く…はないけど。
でもいい人だよ高杉は!』
ズキンッ
まただ…この感じ。
この酷く苦しい痛みの正体を俺は知っている
ずっと今まで押し込めてきた感情だから…
『はい!花火持って』
「…おぅ」
二人してしゃがみ線香花火に火をつけた
波の音と花火の音がだけが俺たちの周りに響いた
パチ
パチパチッ
なんか…
『地味だね』
俺が思ったことと同じことを吉野が言った
『やっぱり線香花火だけじゃ盛り上がらないなぁ。…あ、消えちゃった』
「ま、本来は締めにやるもんだからな」
『…あ!じゃあゲームしようよ』
「ゲーム?」
『二人で同時に線香花火に火をつけて、どちらが長くもつか競争するの!で、負けたほうは焼きそばを奢る』
どんだけ焼きそば食いたいんでィこいつ。
「つーか金ねェんだろィお前」
『あ…』
プッ 相変わらず、変なところ抜けてんな。
ほんと…見てて飽きねーや。
『わかった、じゃあ沖田が勝ったら沖田の好きなことしていいよ!』
「好きなことって言われてもなァ…」
んな簡単に思いつかねーよ。
『はい、花火持って』
「はいはい」
言われるがまま手に花火を持つと吉野は自分の花火と俺の花火それぞれに火をつけた
『よし、じゃあスタート!!』
そう言ってじっと手元の花火を見つめる吉野に自然と笑みがこぼれた
パチッ
パチパチッ
『あ…やばい、くしゃみ出そう』
「オイ、俺のまで消す気か。我慢しろィ」
『…がんばる』