第1章 enrollment
『はぁ、はぁっ、棘の家、遠いよ…!』
走っていた脚を止め、息を整える努力をする。
かぐらが独り言を呟いて見上げたのは、従兄弟である狗巻棘が住む大きな家の門だった。
私の家と違って本家は大きいな、なんて思いながらもチャイムを鳴らし、深く息を吸い込んだ。
呪術高専東京校の入学式を明日に控えている私に入った、突然の本家からの連絡。
"棘が呪言らしきものを発したから急いで来て欲しい。"
12歳下の従兄弟の棘は、まだたったの3歳。
私が初めて呪言を使ってしまったのは5歳の時だったから、2年も早い。
5歳だった私ですら混乱で、理解が追いつかず、呪力のコントロールするまでにかなりの時間を使ってしまったというのに…
『よし…!』
念の為敷居を跨ぐ前に脳を呪力で覆うと、ちょうど扉が開いた。
複雑な表情で出迎えてくれたのは、棘のお母さん…つまり私の叔母。
疲れ切った表情から察するに、棘は既に手がつけられない状態なのかもしれない。
「ごめんなさいね、私は呪力が弱くて自分の身を守れないものだから…」
『いえ、どうか気にしないで…任せて下さい』
「…ありがとうかぐらちゃん。奥の部屋に棘と見張りの者がいるわ」
『見張り…?』
涙ぐむ叔母から飛び出した物騒な言葉に目を見開いた。
しかし当の本人は、自分の涙を拭うのに手一杯で私の声は届かなかったようだ。
一礼してから奥の部屋とやらに急ぐ。
たった3歳の男の子に"見張り"をつけるなんて、棘の気持ちを考えているのだろうかと、若干の怒りと大きな焦りで背筋が凍りそうだった。
棘が傷ついて無いといいんだけど…!
『失礼します。かぐらです。
棘はどこに?……!!』