第1章 私は
それともう一つ。私には不安要素があった。私は、車を運転する先輩の方を見、助手席を見やった。
(またいる……)
私は俯きながら助手席にいるものに気づかないフリをした。
私は先輩の運転する車の助手席に座ったことがない。いや、正確には一度は座ったことはあるのだが、すぐに降りてこうして後ろの席に座っている。
なぜなら先輩には……ついているのである。幽霊が。
機械好きな私がこの非科学的なものを信じているなんておかしな話なのだが、昔から人には見えない幽霊が見えていた。昔馴染みにも話したことがない。誰も信じてくれないから。
そして、先輩には得体の知れない黒いモヤのような何かが、いつも車の助手席にいた。最初は気づかなかったのだが、一度座った直後からいきなり見え、思わず悲鳴を上げたことがあったっけ。だから私は先輩が運転する車の助手席に座れない。
自分なりに調べてみたところ、私が見えているのは決まって誰かのそばにいる幽霊だけなので、守護霊が見えている。なのできっと先輩の助手席にいるのも守護霊だとは思いたいが、人には見えないのでちょっと怖い。
ちなみに上司には優しそうなおばあさんの守護霊がついているのは知っている。それとなく雑談で聞き出したところおばあさんが何年か前に亡くなったということなので、上司についている守護霊は祖母にあたる人なんだろうと思う。
そして、私が不安に思っているのは、これから会うであろう五人の出演者には、どんな守護霊がついているのか、ということである。これから関わる人に、先輩より怖い見た目の守護霊がいたらちょっと怖い。威圧感とかはないんだけれども、もし私が今まで見たことのない怖い幽霊がいたら、普通に働けなくなるかもしれない、と思っていたのだ。
「さ、着いたよ」
そうこうしている間に、先輩が車を停めた。最初に会うのはこの会社の社長である人物らしい。私は恐る恐る車を降りた。