第7章 MOB自慢大会へ
こうして女性に声を掛けるのは社交的にはよくあっても、こんなプライベートな場面で声を掛けるのはそんなになくてうわずったような気がした。女性は振り向いた。
「お嬢さんなんてそんな……ってあ、あなたは」
何度も聞き慣れたリアクション。僕は企業で成功して金持ちになったから、よくそんなふうに驚かれる。僕はそんなに固くならないでと言って、自分たちの紹介もそこそこに、すぐにはMOBたちの話に転じた。
「すみません。僕のパンダがそちらのMOBにステーキをあげたみたいでして」
「え、ステーキ? パンダってステーキ食べるんですね!」
「僕のパンダがステーキを食べる個体なんです」
「へぇ……!」
目を輝かせたように女性は相槌を打つ。この女性、なんだかさっきから眩しい。僕は目を逸らすように女性の飼育カゴを覗き込んだ。パンダドズルにステーキを渡されたのはスノーゴーレムみたいだ。
「スノーゴーレムなんて珍しいですね」
「そうですか? 確かに、お店にはこの子しかいなかったかも……」
「MOB販売所はどちらで?」
「私は──」
なぜかその女性とは話が盛り上がり、大会そっちのけで色々と話し込んでしまった。それに何より、彼女は毒蜘蛛を怖がらなかった。
このままお別れするのは惜しいと、僕は連絡先を交換してまた会う約束をした。すると女性が、MOB持ち込みOKの喫茶店があると教えてくれた。じゃあそこでまた会おう。いつがいいかな。僕たちはスケジュールを合わせて喫茶店で会っては話し込み、時には公園でMOBたちと遊びながら関わり、その女性とMOBたちの関係を深めて行った。
手短にいうと、僕達は、トントン拍子のように結婚した。
今では僕の家には、MOBが十体住んでいる。大切な人と一緒に。
おしまい