第1章 ロッカーパニック
その後、ドズルさんは無事にまたドズル社に復帰した。なんでも夏風邪で熱を出し、さらには熱中症で意識が朦朧としていたらしかった。
それからというものの、スタッフがこまめに水分補給とエアコンの設定を気にするようになった。ドズルさんはケラケラと笑っているが、俺だって気にしている一人。それくらい普通だ。
別日に浴衣撮影をしたあと、ドズルさんが赤のよく似合う黒帯を身につけたまま、俺のところにやって来た。
「あの時はありがとね、MEN」
「え、なんすか?」
「ロッカーの話だよ」
「あ〜……別に大したことしてないっすよ」
内心はわざわざ感謝に来てくれて嬉しくも思っていたが、あからさまに喜ぶのも俺の性じゃなくてそう言った。
するとドズルさんが自分の頭につけていたお面を俺の頭につけながら、へへへっと笑った。
「MENがドキドキしていたことも秘密にしとくからね?」
「は?」
俺が何か言い返すよりも早く、ドズルさんはあっという間にみんなの元へ駆けて行った。
あの笑った顔はズルい。
俺は被せられたお面を顔につけて自分の熱を冷まそうとした。