第5章 あの人と出会ってしまった
ダークブラウンのリブニットにデニム、白のカーディガンを羽織っただけのなんてことのない服を着た私を
サングラスにキャメルのポロシャツと、緑がかったテーパードパンツを見事に着こなした、さもモデルのような大男に褒められてもね。
嬉しくなくは…あぁ、もう、変な事を考えるのは柄じゃない。
「俺の為にオシャレしてきてくれたってことでいい?」
「普段着と変わらないのだけど」
人間1人分くらいの距離の横並びで、バス停まで一緒に歩く道すがら、五条くんはくだらない話を持ち出す。
「今日は俺、寧々と手を繋ぐ気でいるからね。その為にハンドクリームも塗ってきたんだぞ、ほら!」
五条くんはちょっと前を歩いて、両手のひらを私に見せつける。
「無駄な努力ね」
「無駄じゃねぇよ。絶対寧々の方から手繋ぎたい♡って言ってくるから」
「私がそんな甘えた話し方をするとでも?」
今日も今日とて馬鹿は依然として直っていないのね。
「つんけんしたとこも好きだぜ、本当可愛いな」
あまりにも会話が馬鹿らしかったから、それ以降は五条くんの呼びかけを無視して歩いた。
前にも感じたけれど、高専から最寄りのバス停までの距離が短くなった気がする。
何度も思うってことは、本当に距離が短縮でもされたのかしら。