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私のバイト先は推しグルがよく来るかもしれない件について

第4章 強盗犯とドズル?


 ガラガラガラ!
 あろうことか、私はレジスターごとひっくり返してしまった。これ、固定されていなかったのかい、というツッコミも忘れる程に頭はパニックだらけだ。
「おい、何してる!」
「も、申し訳ありません……!」
「あ、ねぇねぇ、店員さん」
「へ……?」
 この緊迫した空気感の中で、似つかわしくない程無邪気な声が間を割って入った。
「おい、なんだ、お前は!」
「こっちにお金が転がってきたから、拾おうと思って」
 いつの間にそこにいたのか、顔の整ったきれいな男性が立っていた。手にはお札や小銭があるところから、カウンターを越えてお金が飛び散ったらしい。
「お前も撃たれたいのか?!」
 頭に血が上った強盗犯が、銃らしきものをそちらの男性に向けた。私はすぐに強盗犯を止めないとと思った。お客様を傷つけてしまったら色々と終わりだ。
「あ、それさ、ワインかなんかじゃない?」
 え。私は硬直した。見ると強盗犯も一瞬固まった。
 その隙に男性は一気に強盗犯に詰め寄って銃らしきものを包んでいたものを取り上げた。ご名答。ワインボトルだ。
「あ、シャンパンだったかな? 僕、こういうの疎くてさ」
 なぜか悠長に強盗犯にそんな会話を持ちかけるお客様。さすがに私も止めようとした。
「あの、お客様……」
「この野郎っ!」
 間髪入れずに強盗犯が男性に殴りかかった。男性の肩にその拳は当たったが、どういうことなのかビクともしなかった。
「なんだ、こいつ……?!」
「びっくりした……いきなりパンチしたら痛いよ?」と男性は殴られた肩をさする。「僕、趣味で体鍛えてるんだけどさ、ボクシングごっことかしたことないから、今度教えてくれる?」
「ええ……」
 趣味で体鍛えていたとして、なんでそんな発想になるんだ。
 しかし、強盗犯のメンタル攻撃は効果抜群だったようで。
「きょ、今日のところはこれくらいにしてやる!」
 強盗犯は何も盗らずにコンビニを出て行った。
 男性は大声で笑った。その声がどこかで聞いたことがある気がして、私はぼーっと立ち尽くした。
「びっくりしたよね。大丈夫だった?」
「え……?!」
「さっきの強盗犯だよね? いやぁ、びっくりしたよ〜」
「でも、その……助かりました」
「ははっ、とっさに出た言葉だったからさ〜」
 まるでドズルさんみたいな笑い声で、私に笑顔を向けた。
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