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さよなら桃源郷(銀魂:銀時夢)

第3章 あたたかな


 時に中心部から流れる噂の中に、遊女達が男の取り合いをする、というものが幾つかあるが、菊の中では阿呆らしいとしか捉えられなかった。『死角』に来る男共は皆本性を曝け出している。女が取り合っている噂の男は猫を被っているようにしか聞こえない。吉原に足を運ぶ男にまともなヤツはいないと盲信していた。

 けれど少なからず、地上には誠実な男がいる。揚羽に希望を持たせるように、菊はそう揚羽と自分自身に何度も言い聞かせていた。揚羽がこの薄暗い地下で果てない事を願い、そしていつか揚羽が地上で幸せになれるように祈った。

 実のところ、菊は銀時を完璧には信用していなかった。吉原に関わりを持っている時点で、そして月詠と親しくしていた時点で銀時は菊の中で信用出来ない男に成り下がる。けれど揚羽を地上に出す好機を逃すはずもなく、菊は銀時に悲願した。銀時がとんでもない悪漢である可能性は捨てきれない。だが地上に出れば、揚羽は吉原の地獄からは免れる。そう思い、菊は賭けにでて銀時を利用したのだ。

 だが銀時と触れ合う事で、その考えも間違いだと気づく。万事屋で過ごす間、銀時は下ネタこそ連発するが、一度も元遊女である事を理由に菊を貶した事はなかった。それどころか、揚羽を育てる対価として働かせると言っておきながら、彼は甲斐甲斐しく菊の傷を癒す事に専念している。きっとこの薬が一般の薬局で売っているというも嘘なのだろう。少量でこんなに効き目があるならば、きっと高価な代物に違いない。世間を知らない菊でも、それぐらいの頭は回った。

 抱くために体を綺麗にしているとも考えられるが、高い金を出してまで行う事ではない。それこそ、吉原で一夜の遊びを楽しんだ方が懐には優しいはずだ。菊(大人)と揚羽(子供)の生活の面倒を見てまで、菊を抱く理由はない。しかし、そうなれば菊にとって余計に分からない事がある。
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