第2章 そして貴方と出会った
深い眠りから意識が戻る瞬間が嫌いだ。目が覚めれば新たに一日が始まってしまう。昨晩の傷がまだ癒えていないというのに、どうせ客をすぐ取らされるのだろう。薄く目を開けば、ぼやけた視界に天井が映った。
ああ嫌だ。今日はいつにも増して体が怠くて痛い。昨日の客はそんなに激しかっただろうか。
回転の遅い頭で昨夜の出来事を振り返る。脳裏に浮かんだのは己の首を縄で締め上げる男の姿だった。そうだ、きっとそいつの所為だ。脳内でいったん痛みの原因を片付けるが、すぐに違和感を覚える。
おかしい。あの男が痛めつけたのは手首と首だ。なのに何故、掌と足裏からびりびりとした痛みを感じるのだろう。
記憶をそのまま辿れば、すぐに炎に包まれた建物の事を思い出した。はっ、と頭が一気に冴える。確か私は揚羽を建物から出した後、死を悟った筈だ。紅蓮の炎に捕らわれて、息絶えているのではないのか。死後の世界など想像した事もないが、生前の痛みまで引き継がれるものなのだろうか。それならば死後の世界はなんと不便利な事か。これでは生きていた頃の延長戦だ。