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さよなら桃源郷(銀魂:銀時夢)

第7章 外の面(とのも)


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「オメーも不憫な女だったな。」

 人気のない遊女専用の墓地の中、高杉は一つの墓の前に佇んでいた。「しずる」と刻まれた真新しいそれは、間違いなく彼が探し求めていた人物の眠る場所である。いつもは鋭い高杉の瞳も、今はどこか寂しげな色を含んでいた。

「約束をこうも堂々と破りやがって、馬鹿なこった。けどこれで心置きなく、この世界をぶっ壊せらぁ。」

 一年前「必ず自由にしてやる」と言う約束を交わした以上、高杉は采女が死ぬ訳がないと高を括っていた。だから吉原炎上を聞きつけた時も、采女が生きている事を信じて随分と探しまわっていたのだ。だがいくら探しても見つからないはずだ。火の手で骨とかした彼女は姿は疎か、名前さえ本名に戻して墓に入ったのだから。

 長い時間が過ぎて彼女の死を受け入れたが、采女の本名を知らない以上、墓にさえ行ってやれなかった。それがどれだけ悔しかった事か。だから今日は偶然とは言え、生き残った采女の友人と会えた事に感謝している。鈴蘭と呼ばれていた彼女がいなければ、永遠にこの墓には辿り着けなかったであろう。確かに、何故あの女が生き延びて采女が死んだのか、と理不尽な逆恨みも胸に宿った瞬間もある。けれど今は、ただ采女と二人だけの時間が再び過ごせる事実を堪能する事にした。

「テメーはもう、あの世でゆっくり休んでな。」

 相変わらず短い逢瀬の時間は、高杉の別れの言葉によって終止符を打たれた。
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