第2章 匂いと誘惑
恐る恐るミケの部屋のドアをノックする。
しばらくして顔を出したミケは
「来たか。」
それだけ言うと、
早く入れと言わんばかりに
ドアを大きく開いた。
「……失礼します。」
覚束ない足取りで踏み入れたミケの部屋は、
殺風景、としか言いようがなかった。
少し大きめのベッド、
ランプしか置かれていない机に椅子、
そして役目を果たせず部屋の隅で
淋しく佇んでいる、隙間だらけの本棚。
生活するのに
必要最低限のものしか見当たらない。
……こんな場所で過ごしていて、
楽しいのだろうか。
そんなことを考えていたら、
強い視線を横から感じた。
ミケが結構な至近距離で
こっちを見ている。
だが何か言葉を発する気配はまるでなく、
その沈黙に耐えきれずに、
「……あの、ご用件を
伺ってもよろしいでしょうか……?」
と、なるべく丁寧な言い方で問いかけた。