第2章 匂いと誘惑
鼻が当たるか当たらないかの距離で
首筋の匂いを嗅がれ続けていると、
ミケ自身の匂いが自分にも感じ取れる。
ほとんど無臭に近いが、
緑の木々をイメージさせるような
渋みのある落ち着いた香りが、
微かに自分の体内に入り込み、
少し鼓動が早くなるのを感じた。
……どうも変な気分になってくる。
匂いを嗅がれているだけで、
こんな気分になるものなのか?
こんなに匂いを嗅がれた経験がないから、
この今の自分の気持ちを表現する言葉が
見当たらない。
それにしても、
これはいつまで続くのだろう……
横目でミケを見ると、
高い鼻が僅かに動く様子だけが見える。
「……あの……まだ、ですか?」
耐えきれず、
ミケを横目で見たまま問いかけると
「やめてほしいのか?」
そう言ったミケの鼻の動きが一瞬止まった。