第5章 潜水艦と日常
部屋の灯りが薄ら漏れているのを扉の中見窓から確認してノックをすると返事があった。良かった、起きてる。いや、『良かった』のかな。また夜更かししてる現行犯じゃない?
「ごめんね、遅くに…」
「いや。おれも行こうと思っていたところだ」
「え?どこに?」
部屋に入るとデスクからローくんが立ち上がるところだった。
その手にはわたしが借りて、そして忘れていったあの本。
「これ、返すとは言ってなかったから忘れもんだろうと思ってな。他の本に紛れてさっきまで戻ってきてることに気づかなかったが」
「わ〜!当たり!…??」
差し出された本を受け取ろうとするとヒョイ、とわたしの手が届かない位置にまで高く掲げられた。
「返すつもりじゃねェのに持ってきてたってことは何か聞きてェことでもあったんじゃねェか?」
「すごい、なんで分かったの?当たりだよ!何か景品でもあげようか?」
「……そんな難しいことじゃねェだろ…景品はもらうが」
「もらうんだ」
クスクスと笑っていると、高く掲げられていた本がわたしの頭に優しく乗った。それをようやくちゃんと受け取り、聞きたかった箇所を開いてローくんに質問するとわたしでも分かるように丁寧に教えてくれた。
「ありがとう。文だけで読むより、やっぱりローくんの解説付きだと分かりやすいね」
「またいつでも聞きに来い」
そう言ってローくんの大きな手がわたしの頭をワシワシと雑に撫でた。……先生みたい。学校にはろくに行ったことがないけれど。
「あ、そうだ。わたし今、不寝番の補佐しててね、シャチくんと見回りしてるんだけど、コーヒー淹れて戻ろうかって話してて。良かったらローくんもいる?」
「ああ。もらう」
もらう、だって。可愛い。
「淹れてから持ってくるね」
「いや、おれも今から行く」
「そう?じゃあ一緒に……あ、この本、改めて借りるね」
「ああ」
ローくんと一緒に部屋を出て食堂に向かうとシャチくんがちょうどコーヒーを淹れる準備が出来た所だった。
「出来るだけ淹れたてが良いと思ってよ」
「ありがと〜」
「ほい、キャプテンの」
「ああ。ありがとう」