第3章 上陸
どう言葉をかけたらいいか分からず目を泳がせるわたしの頬をガッチリと掴むローくん。痛い。
そしてお互いの顔の距離を無くすようにわたしの顔を少し上にあげつつ、自分は屈み鼻が擦れ合う距離で言った。
「いいか、おれは勃起不全じゃねェ。あの女たちに欲を吐き出す理由も必要もねェってだけだ。勘違いすんなよ」
「ッ、!」
凄みのある顔でとんでもないことを言われた。
頬を掴まれているせいで言葉が言葉として出てこない。しかし言われたことを理解した脳がすぐに熱を上げるように身体に伝達したようで、掴まれている頬周りだけでなく、どんどん全身の穴という穴から汗が吹き出るように熱くなっていく。
息を吐き出して体温を下げたいけれど、こんな近距離にローくんがいる状態では呼吸もままならない。
もう無理、と酸欠に陥りそうになった──────と、その時ようやく頬から手が離れていった。
「行くぞ」
「う、うん…!」
何事もなかったかのように歩き出す彼に慌ててついていくけれど、しばらくは身体と顔の熱が引くことは無かった。
「あ、リア〜!おかえり〜……ってあれ?その帽子、前のと似てるね」
艦に戻り、もうひとつの帽子を部屋に置いておこうと女部屋へ入ると、イッカクちゃんが出迎えてくれた。
「うん、キャスケット帽とバケットハットのどっちかがいいって言ったらローくんがこの2つ見つけてくれて」
かぶってる帽子と手に持っている帽子を指すと「へえ〜!最初会った時が今かぶってるタイプだったからそっちのほうがリアって感じがするなあ、アタシは」と言ってくれた。
「てか顔赤くない?走りでもした?」
と、イッカクちゃんに言われてしまったので先程あったことを話し、前聞きたかったことを今聞いてみることにした。
「ローくんって、娼館に行くこと、ないの?」
「ん〜?ないってことは無いと思うわよ。自分から行ってるのは見たことないけどあの見た目でしょ?女のほうが放っておかないから、気分がノったら誘いにノるって感じよ」
やはりわたしの予想は間違っていなかったらしい。
ってことは、今日は気分がノらなかったってことなんだろうか?
何故かその時、わたしはホッと胸をなで下ろした。何に対してホッとしたのか分からなかったけれど、特に気にしなかった───────