第6章 年末
少し暗い気持ちになって下を向く。
「ねぇ、君どこまで行くの?」
『え?』
小さな声で問われ、思わず顔を上げた。
帽子にサングラス。知らない人…。
でも悟さんにちょっと似てる。
「やっぱ可愛い♡奢るからさ、お茶しない?」
あ、ナンパだ…。電車内だし無視しよ。
ちらりと傑さんをみると、無表情でこちらを見ていた。相手も気がついたのか身体で視界を遮る。
傑さん、怒ってる…どうしよう…
「あれ、友だち?すっごい逆ナンされてたよ?彼女だったらちゃんと捕まえておくよね、普通。ね、ちょっとだけお話しようよ♡」
傑さんを悪く言われた気がして、言い返そうと顔を上げる。
でも、そうだ…
彼氏だって言えないんだ…
私たちの関係ってなに?
いつも守られているけど、1人の時に何もできないなんて…本当に役立たず。
「ん?行く気になった?本当に可愛い♡
俺さ、君の香り好きだな♡香水?」
頭を撫でられる。
やめて触らないで。思わず顔を背けて触られないように避けようとする。
“ねぇ、あれって…” “え?モデルの?”
“そうそう…” “かっこいい♡”
もしかしてこの人のこと?
有名な人なの?だったら余計に関わりたくない。
次の駅に着いて肩を抱かれながら降り口のドアへ向かう。
『ちょっと!私降りるなんて言ってないです!』
小さな声で抗議し、傑さんに助けを求めようとしたけど、私を探している様子。この人の身体で隠れてしまってるんだ。どうしよう…
降りたら普通の声量で文句を言おうと決めた。この人、強引すぎる。
携帯を出し、傑さんは電車内だけど、緊急事態だと言い聞かせて電話をする。
『ちょっと!困ります…逸れちゃったじゃないですか!』
ホームに降りて顔を覗き込まれ、目線を合わせられる。
「…本当に俺のこと知らないの?」
ちっ近いよ…そしてあなた知りませんけど!?
傑「汚い手で彼女に触らないでもらえるかな?」
私の後ろから安心する声がする。
よかった、安心したと思ってパッと見上げると、怒ってる。
ものすごーく怒ってる。
冷たく見下されて、口を結んで小さくなる。