第4章 変化
夏油side
初めて任務を完了することができなかった。
任務を遂行できなかったことよりも、風海を守ってやれなかったことが悔やまれてならない。
悟が反転術式を使えず死んでしまっていたら?
風海はきっと拷問されていただろう。
自分は術式のおかげで生き延びた。
もう彼女のいない人生は考えられない。
硝子に反転術式で治してもらい、盤星教の本部に向かった。
もうそこに風海はいないかもしれない。
着いた時の光景を今でもハッキリと思い出せる。
横たわる風海の前に膝をつき、手を握って涙を流す悟の姿。
死んでしまったのだろうか?
ただ、その光景があまりにも美しく見えた。
初めて見た親友の涙。
それだけ大切に思っていたのだろう。
しばらくそのまま動けなかった。
自分の想いだけで彼女と悟の婚約を反対していたが、愛しい人を守るために身を引くのも必要なことかもしれないと思った。
近づいていくと
悟「風海は生きてる。」
それだけで、ここにきた意味があった。
思わず風海を抱きしめた。
理子ちゃんの遺体を回収するにあたって、拍手で見送られる。
悟「傑、コイツら殺すか?今の俺ならたぶん何も感じない。」
気持ちはわかる。
強者は弱者のために。何がだ。
罪のない人が死んだというのに…
傑「いい。意味がない。見たところここには一般教徒しかいない。」
自分に言い聞かせる。
今は彼女が生きていたことだけを喜ぼう。
その他の理不尽は考えるだけ無駄だ。
強者は弱者のために。
術師は非術師のために。
理不尽だが、そうあるべきだと言い聞かせる。
冷静になれ。
彼女が早く目を覚ますように、早く硝子に見てもらった方がいい。何があっても離さないよう、しっかりと抱えて歩き出す。
しばらくすると目を覚まし、私の名を呼ぶ風海に安心した。
傑「愛雪!!よかった!」
『悟さんは?』
任務のことよりも、悟が心配かい?無理もないが。
反転術式を使って生きていると聞いて、安心したのか強く抱きつき声を出さずに泣き出す風海。
傑「よく頑張ったね。泣かないようにしていたんだろう?」
きっと人魚姫のことがバレたから。あの時、この人は全部知ってると言っていた。涙を流すこともできなかったんだろう。