第35章 結婚指輪を捨てた日(凛・烏・氷織)
氷織羊
「結婚なんかせな良かった」
喧嘩の最中に羊は無表情のままそう言った。今まで喧嘩してもそんな事言わなかったのに初めて言われて、ボロリと涙が溢れ零れた。
「あ、🌸…」
すると羊は直ぐに焦った表情を見せたが私な泣き叫んでいた。
『じゃあもう離婚する!そんな事言うなら離婚する!この指輪なんか、もう要らない!』
そう言って片時も外さなかった結婚指輪を私は初めて外してゴミ箱に投げ捨てた。
「🌸…」
呆気に取られている羊を見ながら私は寝室へと走ると布団を被って丸まった。枕はどんどん涙で濡れていき嗚咽が漏れていれば、寝室の扉が開く音がしてベッドから軋む音がした。羊が私の隣に座ったのだ。
「🌸、ごめん。僕、絶対言うたらいけん事言うた。なんで直ぐに気付かんかったんやろ…」
後悔したような弱々しい言葉に私は思わず布団から出た。でも羊は俯いたままだった。
「謝るから、僕を捨てへんで…。僕を一人にせんといて…」
ポロッと涙が落ちて布団にシミを作った。それを見て私は両手を伸ばすと羊の頬を包み込む。彼の瞳からは涙が零れていて、羊は私の手に自分の手を重ねた。
『捨てないよ、こんな泣き虫な羊を。だからもう言わないで?あんな事』
「うん…」
『私もあんな事言ってごめんなさい。指輪も捨てちゃってごめんね』
そう言うと羊は手のひらを開いて指輪を私に見せた。その指輪を手に取り左手の薬指に付けると羊は私を抱きしめてきた。
「今日はもう離れとうない…」
そう言って2人してそのまま眠りについた。