第10章 感謝
「礼には及ばない。
お前が無事で…本当に良かった。」
『っ…』
パッと顔を上げて赤井さんの方を向くと
私のことを優しい目で見つめていたけど
なんだかいつもより熱がこもっているように見えた。
赤井さんの綺麗な目をジッと見ていると
パトカーのサイレン音が聞こえてきた。
「さっき警察を呼んでおいた。
俺は同行出来ないが、自分でちゃんと話せるか?」
赤井さんの質問に私はコクコクと頷き
自分の上着のポケットに入れておいたICレコーダーを取り出した。
『約束していた通り…録音状態にしてました…
これできっとストーカーされていた証拠になるはずです。』
赤井さんが私の警護をすると言ってくれた日に渡されていたICレコーダー。
ストーカーが私と接触した時には会話を録音するよう赤井さんに言われていたんだ。
「ふっ…上出来だ。」
赤井さんはそう言うと、私の体をギュッと抱きしめた。
『赤井さんのおかげです…
本当にありがとうございました。』
「礼はいらないと言っているだろう。
…これでボディーガードの仕事も終わりだな。」
パトカーの音が徐々に近づいてきたので
赤井さんは私から離れて立ち上がった。
「…じゃあな、美緒。」
私に笑顔を向けた赤井さんは、路地から出て歩き出し
私は立ち去っていく彼の背中に向かって声をかけた。
『あの…!また今度お礼させて下さい!
連絡しますっ!』
振り返って私を見ている赤井さんは
一瞬だけ笑い、そのまま何も言わずに立ち去って行った。
ぼーっと赤井さんの後ろ姿を見つめていると
私の元にパトカーが到着し事情を説明して
先輩教師は手錠をかけられ連行されて行った。
誰に助けてもらったのか警察に聞かれたけど…
本当のことは言わず、通りすがりの人に助けて貰ったと言うことにしておいた。
赤井さん…助けてくれて本当にありがとう…
私はその後警察に事情聴取をされ、ストーカーに遭っていたと被害の報告をし
男性教員の彼は逮捕された。
犯罪者になってしまった彼は教員免許剥奪、懲戒免職となり、世間を少し騒がせてしまうニュースになったけど
それは一時的なものですぐに治ってくれた。