第43章 謝意
「まぁ、これからもあの男に言えない悩みがあれば
いつでも言って下さい、力になりますよ。」
『ふふっ、ありがとうございます。
やっぱり安室さんって優しい方なんですね。』
いつも何を考えてるのかわからない謎の人だけど
絶対、根はいい人だ。
赤井さんもそうだけど、安室さんもイケメンだし
きっと私が元いた世界では安室さん推しの人もたくさんいただろうな。
「美緒さんといると…
自分がいい人間だって思うことができるんです。」
『?いい人間…?』
「僕が組織に潜入していることは知ってますよね?
任務のために、時には手を汚すこともやって来ました。
従わなければ殺されてしまいますから…」
…確かに潜入捜査官なら
そういう事をしててもおかしくはないよね。
でもそれは悪い人達を捕まえる為には仕方のない事なんだろう。
私には分からない世界だ。
「でも…純粋なあなたと一緒にいるだけで
自分も同じように純粋で…真っ白な人間になってる感覚になるんです。普段は真っ暗闇に佇んでいるから…余計にね。」
そう話す安室さんは、なんだかすごく辛そうで…
いつも凛としている綺麗な瞳が揺れているように見えた。
『あの…私には難しいことはよく分からないですけど…
安室さん、疲れてるだけじゃないですか?』
「…はい?」
『だって安室さんって元からいい人間じゃないですか。
学校の生徒達からも聞いてますよ?
冷凍車に閉じ込められた時にも助けに来てくれて
悪い人を倒して捕まえてくれた事や、
自転車が乗れるように練習に付き添ってあげたりもしてくれてるんですよね?
それにこの間のパン教室でも
子供達に優しく丁寧に教えて下さってましたし…
私からすれば、あなたの方がよっぽど純粋な人ですよ。』
元からそんなにいい人が
悪事を働いて辛くないわけがない。
でもきっと安室さんは真面目な人だから
余計に苦しんでいるんだろう。
それにポアロでも働いてて、私立探偵もしているくらいだから
きっと休む間もないはずだ。