第6章 正体
「俺の友人に…何か用か?」
いつも通り睨みを効かせながら男の顔を見ると
すぐにビビって逃げ出した。
そして美緒の方へ顔を向けると
また俺に助けられると思っても見なかった表情をしていた。
『赤井さん…あの…また助けてもらっちゃいましたね…
ありがとうございます…』
「…この間気をつけろと言ったばかりだろう。」
『うぅ…そう言われると何も言えません。
ごめんなさい…。』
俯いた彼女の落ち込んだ顔を見ると
俺は無意識に美緒の頭に手を伸ばしていた。
『っ、あ、赤井さん…?』
「…悪い。」
…何やってるんだ俺は。
恐らく今、彼女を慰めようとして頭を撫でた。
…なぜそんな事をしようと思ったのか
自分で自分のことが分からない。
気がついたら腕が伸びてしまっていたからな…
『えっと…本当にありがとうございました。
赤井さんって優しい方なんですね!
じゃあ私はこれで…失礼します。』
「っ…。」
満面の笑みを俺に向けた後、美緒は自分のアパートの方へ向かって歩き出した。
…俺がお前を調べるために尾行していたなんて疑いもせずに、またあの花が咲いたような笑顔を向けた美緒。
以前と同じように
彼女の笑顔を見た瞬間、俺の心臓はドクンと波打った。
何なんだ…この胸の鼓動は…
何であんな一般人の女に俺は動揺させられてるんだ…?
『…まさかな……』
一つの感情の答えが頭を過ったが
そんなはずないだろう…とすぐに頭の中で否定し
そんな考えが思い浮かんだ自分自身に呆れた。
…とりあえず、あの女は恐らく組織とは関係ない人間で
間違いなくシロだろう。
今度は彼女の経歴等を調べて
あのボウヤから美緒にかかった疑いを晴らす事にしようと決めて、俺は尾行をやめ滞在しているホテルに向かって歩き出した。