第32章 留学
『あの…!助けてくれて…ありがとうございました!
何かお礼を…!』
「礼には及ばない。たまたま通りかかっただけだからな。」
『でも…
あ!じゃあこれ、よかったらどうぞ!!
実は最後の一つだったんです!』
俺に差し出してきたのは
先ほど男達が寄越せと言っていたカップケーキだった。
「本当に気にするな。大したことはしていない。」
『いやいや、こんなお礼だけじゃ足りないくらいですよ!
ちょっと待ってて下さい、
私のホストファミリー達も呼んできますから
ちゃんとお礼させて下さい!!』
パッと花が咲いたように満面の笑みを俺に向けた女は
手に持っていたカップケーキを俺に無理矢理手渡した後
店の中へと入って行った。
その女が立ち去る時にフワッと香った甘くて優しい香り…
香水とは違う感じで
彼女の体臭なのか、それとも髪の匂いなのかは分からないが…
なぜかとても落ち着く香りだった。
俺は手に持ったケーキをポケットにしまい
そのまま店から立ち去った。
本当に大したことはしていないし
お礼を言われるほどの事ではないからな。
その時にもらったカップケーキは
仕事の休憩中に食べようとしたんだが
そばにいたFBIの同僚が腹を空かせていて譲った為
俺は食べる事が出来なかった。
そして、ワシントンに帰る前にもう一度あの店に寄ったが
その日はあいにく定休日で…
同僚にあげるべきではなかったな、と少し後悔した。
ーーー…
まさかあの時の女が美緒だったとはな…
9年前なだけあって、あいつはあの時高校生だったんだろう。
今よりも少し若い顔立ちをしていた美緒…
だが思い出してみれば笑った時の顔は全然変わってないな…
それに
あいつの家に初めて行った時に嗅いだ甘い香り…
どうりで懐かしいと思ったわけだ。
過去に美緒と出会っていた事を嬉しく思いながら
俺は工藤邸へ向かうスピードを早めた。