第30章 救済
『っ、そんな…』
彼女のお陰で観覧車は無事に止まり
子供達は安心していた。
「やった…!止まったぞ!」
「きっとコナン君が止めてくれたんだよ!」
喜ぶ子供達に目を向けると
みんな怪我はしていなさそうで安心したけど…
私は燃え上がるクレーン車に再び目を向け
そこからしばらく目を離せなかった。
「先生…額から血が出てるわ。これで押さえて?」
灰原さんは私にハンカチを差し出してくれていたようだけど…
私は呆然とクレーン車を見つめていたから
彼女の言葉は耳に入って来なくて…
灰原さんは何も言葉を発しない私の額に
黙ってハンカチを当ててくれた。
そして救助隊の人が来てくれたので
私達はゴンドラから外に出ることができた。
地上に降りてから灰原さんと共に
燃えていたクレーン車の所に向かうと
救急隊員の人が担架で遺体を運んでいるのを見つけた。
そこには警察病院で見た公安の刑事さん達もいて
遺体の確認がしたいと救急隊員の人に告げていた。
「構いませんが、身元が判別できる状態ではありませんよ。」
体にかかった布をめくって遺体を見た刑事さん達は
眉間に皺を寄せていて…
本当に誰なのか分からないくらい
酷い状態なのだと思い知らされた。
『なんで……命を懸けてまで私達を…?』
「っ、先生…」
『どうして…?悪い人だったんじゃないの…?』
そう呟く私を江戸川くんと灰原さんは
とても悲しそうな目で見つめていて…
私の目からは大粒の涙がぽろぽろと溢れ出した。
足の力も抜けてきて地べたに座り込みながら
手で顔を覆い啜り泣いていると、灰原さんにそっと背中を撫でられた。
「先生…どんなに悲しんでもあの人は戻って来ないわ…?
子供達が心配してるだろうから
みんなのところへ戻りましょ…?」
「そうだよ…
先生も怪我してるんだから早く手当しないと…」
2人に支えられてなんとか立ち上がり
灰原さんはまたハンカチを手渡してくれて…
今度はちゃんと自分の手で受け取り、未だ血がポタポタと垂れ続ける額の傷に当てた。