第29章 記憶
工藤邸での居候生活はあっという間に終わり
私は再び自分のアパートで生活する暮らしに戻った。
毎日赤井さんと顔を合わせていたから
元の生活に戻った時はそれはもう寂しくなっちゃって……
自分がどれほど赤井さんに夢中なのか思い知らされた。
元の生活に戻れたのは
私が1人で外を歩いても見張っている人が誰もいない事が分かったから。
赤井さんと江戸川くんが確認してくれたらしい…。
以前と同じような生活に戻ってからも
赤井さんと私の関係は順調だった。
最後に会ったのは1週間前で
現在、仕事終わりの私は工藤邸の門の前に来ていて
持っている合鍵を使って家の中に入った。
今日は借りていた小説を返して
また新しい小説を借りるために工藤邸を訪れた。
…まぁ、それは口実で本当は赤井さんの顔が見たかっただけなんだけど。
玄関で靴を脱いでいると
素顔のままの赤井さんが大きな縦長のカバンを背負って
私の元に向かってきた。
『お仕事ですか?』
「ああ……今日は帰れなくなりそうだ。」
…それは残念、でも仕事なら仕方ないね。
『気をつけて下さいね?
小説を借りたら私もすぐに帰ります。』
笑顔でそう伝えると赤井さんは優しく微笑んだ後
私の後頭部に手を回し、ちゅっ、と私の唇にキスを落とした。
「今日の埋め合わせはまた今度させてくれ。」
『?そんなのいりませんよ?
少しでも赤井さんの顔が見れて良かったです。』
「…お前はいつも急に可愛い事を言うから困る。」
『赤井さんこそ…いつも急にキスするから
私は恥ずかしくて困ってます…。』
互いに見つめ合い、微笑み合った後で
もう一度だけキスをしてから赤井さんは家を出て行った。
さっき赤井さんが持っていたカバンには
恐らくライフルか何かの銃が入れられているはず……
不安な気持ちを押し殺して彼が無事である事を祈りながら
小説を一冊だけ借りて、私は自分のアパートへ帰ってきた。