第19章 亡霊
「またお会いしましたね。」
『あなたは…名刺くれた人ですね。』
「そうです。僕の家ここの近くで
偶然あなたを見かけて声をかけたんですが…
何か悩んでいるようでしたけど大丈夫ですか?」
『ええ…大丈夫です。じゃあ私はこれで…』
今誰かと話すのは少し面倒くさくて
すぐに立ち去ろうとしたけど…
グッと腕を掴まれ引き止められてしまった。
「大丈夫ではないでしょう。思い悩んだ顔をしています。」
『…気のせいですよ、本当に大丈夫です。』
「名刺にも書いたんですが
僕は私立探偵をやってる安室透といいます。
そういう表情を読み取ることは得意なんですよ?」
『すみません、
名刺は無くしたので見てなかったです…
私は若山 美緒と申します。
確かに悩みはありますが、あなたには関係ないことなので大丈夫です。』
名乗られたから名乗り返し
早く話を切り上げて立ち去ろうとしているのに
なかなか手を離してくれない安室さん。
そしてなぜか少しずつ私に近づいて来たから後ずさると
いつの間にか背中には壁があり…
さっき昴さんにやられた様な壁ドンをされている事に気づいた。
「あなたのような可愛らしい人が悩んでいると知って
放っておけるほど薄情な男ではないですよ。」
こんなイケメンに壁ドンされて甘い言葉を囁かれて
普段の私ならきゅん、としていただろうけど…
今は昴さんにキスされた事で頭の中は一杯で
トキめいている余裕なんて全くなかった。
もう完全にキャパオーバーです。
『はぁー…』
「ため息…ですか?」
『あなたみたいなイケメンにこんなことされて
本来なら喜ぶべきなんでしょうけど……
今の私にはそんな余裕全くありません。』
「言っている意味がよく分から……、っ!?」
至近距離で首を傾げている安室さんの足を思い切り踏ん付けて、痛みに苦しんでいる隙に距離を取ることに成功した。
『いっ、言っておきますけど
あなたが先に手を出して来たから…正当防衛ですよ!』
私はそのまま逃げる様に走って家まで帰ってきた。
今日はなんだか色々なことがありすぎて疲れた…
何も考えたくなくて、私は帰って来てからすぐにベットの中に潜り込み、気疲れからかすぐに眠りについた。