第14章 残酷 ✴︎
side 赤井
美緒の家に来て、もうここには来れないことを伝えると
アイツは気にするなと言ってコーヒーを入れる為にキッチンに向かっていった。
俺に背を向けて湯を沸かしている美緒の背中が震えているように見え、ソファーから腰を上げて俺もキッチンの中へ入った。
俺と目を合わさないようにしている美緒。
肩を掴んでこちらの方を向かせると
目には涙が溜まっていて、俺と視線を合わせるとその涙はボロボロと流れ落ちた。
…なんとなくは分かっていたが
きっとその涙のワケは俺と同じ気持ちなんだと確信した。
それがとても嬉しくなり夢中で美緒と口付けを交わし、唇を離したところで俺を上目遣いで見る美緒の顔を見たら…
我慢ができなかった。
ベットで美緒を抱き終えると
余程疲れたのか美緒はすぐに眠ってしまった。
風邪を引かないように布団を掛けようと
ベットの下に落ちている掛け布団を拾おうとしたら、シーツについた赤いシミが視界に入った。
「本当に…初めてだったんだな。」
俺に初めてを捧げてくれた美緒が愛おしくて仕方ない。
…こいつと…離れたくない………
このまま時間が止まって欲しい…と願わずにはいられなかった。
しばらく一緒にベットで横になり美緒の体を抱き締めているとすぐに時間がきてしまい、俺はベットを降りて服を着た。
「美緒…元気でな。」
最後にもう一度だけ美緒の柔らかい唇にキスを落とし寝室を出た。
そしてそのまま玄関を出て合鍵で鍵を閉め
ポストにその鍵を入れるとカラン、と鍵が落ちる虚しい音が響き胸が締め付けられた。
アパートを後にして近くに止めていた自分の車に乗り込み、水無怜奈との待ち合わせ場所である来葉峠に向かった…
…その日俺は死んだ人間となり、その日以降は素顔を晒さずひっそりと暮らす生活に変わった。