第1章 1
長年願い続けてきた願いが叶った。
ずっとずっと大好きだった下野紘さんとお仕事がしたいと言う思いから舞台の演出の仕事に転職して早3年。
とうとうその夢が叶い、下野さんと一緒に仕事をすることになった。
とは言え、まだまだ下っぱなわたしが出演者である下野さんと話す機会がそうあるわけでもない。
が、打ち合わせや稽古で現場に行くたびに彼を見かける。
誰に対しても優しく誠実な彼の性格にどんどん惹かれていった。
以前からファンという立場でありながら、彼に本気で恋をしていた。
表に出ている時と全く変わらない彼の裏側の顔を知り、等身大の優しさに触れ、彼に恋するなという方が難しい話だ。
自分も彼も既婚者であることは百も承知だ。
別に彼とどうこうなりたいと思っているわけではない。
1ファンとして、彼の仕事の妨げになるような行動を取るつもりはないし、既婚者の彼に既婚者の自分が告白するほど勇気も行動力もない。
ただただ、彼と共に最高の舞台を作りあげることに専念したいと思っていた。