第5章 ピンチ…かもしれない。
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臨時教師として働き出して10日も過ぎた頃──
「ったくおまえは…見るのは俺じゃなくてこっち」
俺は机に置かれたノートをトントンと指で叩く。
「え、見るくらいいいでしょ、朔ちゃん」
「てか、学校で『朔ちゃん』は禁止。『吉野先生』な?…って、そんなことはいいから、早く課題やってくれよ」
夏休み明けすぐに行われたテストで、数学において散々な結果を叩き出したあお。
その補習に俺は付き合う羽目になっていた。
あの件があってから、なるべくあおと二人きりにならないようにはしていたものの、補習となればやむを得ない。
しかもさっさと課題をやれば帰れるのに、おそらくわざとゆっくりやって俺と二人きりになるのを狙ったに違いない。
「ほら他の生徒はみんな帰ったぞ?…てかおまえ、そんな点数取れない教科じゃないだろ」
そう言うとあおはニヤリと微笑って俺を見る。
「だって朔ちゃん明らかに俺のこと避けてたでしょ?こうでもしなきゃ話も出来ないじゃん」
「だからっておまえ、今こんなことやってたら受験にひびくだろ」
「大丈夫、次からはちゃんと本気出すから」
俺がちゃんとあおと向き合わなかったことも悪かったとは思うけど、そんな理由で補習を受けるまでするなんてこっちがヒヤヒヤしてしまう。
「だから朔ちゃん、俺と付き合ってよ」
「っ、つ、付き合う!?」
「そ。いきなり『俺だけのDomになってくれ』なんてハードル高かったと思うから、まずは俺のコイビトから…」
あおは頬杖をついたまま俺を見上げて、いたずらっぽく微笑う。