第3章 再会。
6)
「な、何があったか知らないけど、飛び降りようだなんてバカなことするなよっ」
「ちょ、ちょっと待て、飛び降りるって誰が…?」
あおは無言で俺を指差す。
「は?何で?」
「は?だって今にも飛び降りそうに身体乗り出してたじゃんっ」
焦って喋るあおが可笑しく見えてきて。
「っ、ふはははっ、違うわ」
「えっ、え?違うの?……良かったぁ…」
ようやくあおの顔に安堵の笑みが浮かぶ。
「俺はただあの遠くの海を見ようとしただけ。ふふっ、でも心配してくれてありがとう」
「あー俺の早とちり」
バツが悪そうにあおが微笑(わら)ってさっと起き上がり、俺がいた辺りの柵に手を掛けて遠くを眺める。
「あ、でも俺もここから見える海、好きなんだよね…ほら朔ちゃんも…」
そう言って振り返ったあおが俺に向けて手を伸ばした。
その手を掴もうとして、自分の左腕に軽い痛みが走ることに気づく。
「っ、つ…っ」
「どうしたの?もしかしてどっかケガした?」
「いや、大丈夫」
「本当?ちょっと見せてよ」
「や、大丈夫だって」
「見せてっ」
あおの口から少し強めに発せられたその言葉にピクッと身体が震え、おずおずと左腕を差し出した。
完全なCommand(コマンド)ではないにしろ、身体が反応してしまうのはSubの厄介な本能だ。
「…ゴメン、俺のせいで朔ちゃんのことケガさせた…」
あおが見つめる先には少しだけ擦りむいて赤くなった俺の腕。
「な、このくらい何でもないって、気にするなって」
「っ、いやダメ、保健室行こっ」
「は、ちょっと待てって、あっ」
俺が止めるのも聞かず、気づけば俺はあおの腕の中に抱えられていた。
しかも女子の憧れである、いわゆる『お姫様抱っこ』という形で───