第61章 五/夏/七/甚/直 妊娠しないと出れない電車最終章 夏油傑
「わたしの好きな人は…」
目の前に座る夏油先輩をそっと見る。
すると細長い目元がわずかに動き、瞳孔が開いている。
穴が開くほど見つめられて唇をキュッと結ぶ。
夏油先輩にめちゃくちゃ見られている。
いつも優しく見守ってくれる視線じゃなく、がっついた欲を感じる視線に心臓の音が飛び出しそうになった。
…いつから、だろう。
夏油先輩がわたしに興味を持ってくれたのは。
ただの先輩後輩の仲だと思っていたのに、いつからわたしを“女”として見ていたんだろうと色んなことを想像し考えてしまう。
この電車に乗らなかったら夏油先輩に抱かれる想像すらつかなかった。
夏油先輩の本心にさえ行き届かない気がした。
「…げとぉっ、せん…ぱい…」
胸の奥底から声を絞り出した。
本気で想っているから抱きたいと言われた時、初めて夏油先輩が男の人に感じた。
異性という認識はあったが、いつの間にかこの人なら何も考えず話せるという絶対的安心感が生まれ、異性というより人間性に強く惹かれていた。
「…ぅぅ、…夏油、せんっぱぃのことが…すきっ…です…」
この人しかいないと心に決めた。
好き、という言葉の恥ずかしさに埋もれて声が震えて小さくなる。