第57章 五/夏/七/甚/直 妊娠しないと出れない電車-漆-
…危なかった。
五条先輩が理性的で本当に助かった。
「あー…もうやだぁ…。媚薬なしでアレとか…もう…」
人間として終わっている。
自分がこんなにケダモノだとは思わずショックを受けながら乾いた髪に涼しいドライヤーをあて続ける。
「…もう、早く妊娠してよぉ…」
わたしがおかしくなる前に。
セックスに狂った廃人になんてなりたくないし、自分が自分でなくなるのが怖い。
「…なまえ?そこにいるのかい…?」
「あ…すみません…」
長居し過ぎただろうか。
車両同士だと声が届かないので扉を開けるしかなく、夏油先輩が心配そうな顔を出す。
「倒れているんじゃないかと思ってね。大丈夫?」
「はい。体は大丈夫です…」
体はいたって健康だが心が大丈夫でない。
夏油先輩の顔をみると心情が伝わってしまったようで慌てて立ち上がる。
「もう出ます!元気です!」
「無理しないでくれ…とは言っても無理だよね。力になれなくて情けないよ…」
夏油先輩は優しすぎるから申し訳ない。
二人で話したい気持ちもあったが何を話せばいいのかわからないし、セックスの回数で片付けるわけにもいかない。