第54章 五/夏/七/甚/直 妊娠しないと出れない電車-肆-
「うわあ…お湯がちゃんと出る…」
三両目の車両は五条先輩の言った通り浴室だった。
向こうから脱衣所が丸見えなのでバスタオルを使って覆い隠し、ひとまず丸見え状態は解決する。
「でもこれが最後の車両なんだよね…」
ややテンション低めなのはそのせいだ。
四両目があるなら寝台列車のような車両を期待したのだがそう上手い話はない。
浴槽のないシャワールームだけの浴室だったが着替えや洗濯機、ホテル並みのアメニティが揃っており、先輩達のお言葉に甘えてしっかりドライヤーで頭を乾かす。
「あ…終わりました。先に使わせてもらいありがとうございました」
門番のように扉の近くにいた夏油先輩に控えめに声を掛ける。
「本来なら先に調べるべきだったけど何か問題は?」
「快適でしたよ。お湯も冷たい水も出ますし、寮と変わらない感じです」
「そうか。それなら良かった」
夏油先輩は心配性だ。
扉の鍵を開けるためとはいえ食事処で五条先輩と盛り上がってしまい、事情を先に話した夏油先輩に諸々を手伝ってもらったのだ。
できるだけ意識しないように会話を試みても夏油先輩と向き合おうとすると神妙な空気が流れてしまう。
「僕もう先に入るわ。ずっとこの暮らしが続くと思うと肩こってしゃあない」
「俺は快適だけどね」
五条先輩はバランスを取りながら椅子に座っており、煽るような視線を向ける。